東京高等裁判所 平成6年(う)1244号 判決 1995年1月25日
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中八〇日を原判決の刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人野武興一が提出した控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。
<事実誤認の主張に対する判断・略>
なお、原判決は、本件二丁の種類の異なるけん銃をそれぞれ適合する実包と共に保管所持した行為の罪数について、銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第二項は、適合実包と共にするけん銃の携帯、運搬又は保管して所持する行為がその危険の現実化の可能性が増大することを理由に「適合する実包と共に」という客観的状況を犯罪の加重要件としたものであり、それぞれのけん銃毎に適合性が問題になるので、けん銃所持の個別的な危険性に着目する趣旨をも含むものと解されるから、異なる適合実包と共にする数丁のけん銃を携帯、運搬又は保管して所持する行為は、一個の行為であるときでも、各けん銃毎に構成要件を充足して数罪になると解すべきである、というのである。
しかし、銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第二項は、「前項の違反行為をした者で、当該違反行為に係るけん銃等を、当該けん銃等に適合する実包……と共に携帯し、運搬し、又は保管したものは」と規定しており、その規定の仕方に徴すれば、同項が処罰の対象とする実行行為はけん銃等の所持のみであって、適合実包等の携帯、運搬、保管は、実行行為としてではなく、客観的な加重要件として規定されていると考えられ、したがって、けん銃等の所持のみが実行行為であることは、同条一項所定の適合実包等の携帯、運搬、保管を伴わない単なるけん銃等の所持(単純所持)の場合と何ら異なるところはないのである。そして、この単純所持の罪については、所持するけん銃等が複数であっても、これを包括して一罪とするのが確立した判例である(最高裁判所昭和四三年一二月一九日第一小法廷決定・刑集二二巻一三号一五五九頁参照)。
そもそも、適合実包等と共にするけん銃等の所持(加重所持)の罪が新設された趣旨についてみると、適合実包等と共にけん銃を所持する場合には、速やかに実包等の装填、発射が可能になるという点において、単にけん銃等のみを所持する行為に比較して社会的危険性が高く、社会的非難の程度も強いために、重く処罰することにしたものと解されるのであって、もとより実包等の適合性はけん銃毎に問題になるとはいうものの、複数のけん銃等の加重所持の行為の個数がその所持の態様からみて一個であると認められる場合にまで、けん銃毎に別個の構成要件的評価を加えなければならないほど、けん銃毎の個別的な危険性を重視しているものとは思われない。つまり、加重所持罪の保護法益も、単純所持罪のそれと同様、生命・身体のような一身専属的なものではなく、社会の安全であり、単純所持罪に比較して社会的な危険性が高いが故により重く処罰されるにすぎないことからすれば、その罪数もその危険の個数すなわち加重所持の行為の個数によって決するのが、前記最高裁判例の趣旨に照らしてみても相当であると考えられる。したがって、加重所持が一個である限りは、けん銃が複数の場合であっても、これを包括して一個の加重所持罪が成立すると解するのが相当である。
それ故、右と見解を異にする原判決の罪数判断は誤っているといわざるをえないが、本件においてはその処断刑の範囲に差異をもたらさないから、右誤りは何ら判決に影響を及ぼすものではない。
よって、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における未決勾留日数の算入につき刑法二一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 早川義郎 裁判官 仙波厚 裁判官 原啓)